リチウムイオン電池の開発によって、日本人の吉野彰さんのノーベル化学賞受賞が決定しました。
そんなリチウムイオン電池が使われている電気自動車は果たして本当に環境に優しいのでしょうか?今後のリチウムイオン電池の課題は何なのでしょうか?
記事全体の流れ
比較の仕方〜走行時だけが比較対象じゃない〜
よく電気自動車は、「CO2排出量ゼロ」という言葉を聞きますが、これは電気自動車の一部を切り取って表現したものなので、自動車を他のガソリン車などと比較しようとする時には、不十分な考え方になります。
(出典:「電気自動車(EV)」だけじゃない?「xEV」で自動車の新時代を考える)
自動車の環境負荷を考えるときに2つの考え方があります。
Tank to Wheel
この考え方は、先程の世間でよく聞く「電気自動車はCO2排出量ゼロ」と同じ考え方で、「タンクに燃料が入ってからタイヤが動くまで」という考え方です。つまり、走行中にどれだけCO2を排出するかということですね。
Well to Wheel
一方で、車や燃料を作るところから走行中まで全体のCO2排出量を考えるという考え方です。
上の図のように、Well to Wheel は Tank to Wheel を包括するようなイメージです!
この考え方によって、その製品を選び使うことが本当に環境に優しいのかがわかります。
ガソリン車と電気自動車はどちらが環境に優しいのか
これから紹介するのは、自動車会社のマツダと工学院大学が共同で行ったライフサイクルアセスメント(LCA)による各車両のCO2排出量の調査です。わかりやすく要点を噛み砕いて説明しようと思います。
この調査では、実際にその製品やサービスを使うと考えて、車のメンテナンスであったりなど実態に基づいた測定が行われています。
また、発電割合(火力、水力、風力、太陽光 etc..)に基づいて電力を発電する際のCO2排出量を求めています。
車両製造段階のCO2排出量
(出典:ディーゼル、 EV、ガソリン 本当にエコなのはどれだ!!! これで決着!!?? より 筆者が編集)
この表では、各車両の各部品の製造段階で排出されるCO2の量を示しています。
ここでわかるのは、「電気自動車は製造段階、特に車両用の電池がかなりのCO2を排出している」ということです。
現時点でのCO2の排出量は、ガソリン車 < 電気自動車 という感じになっています。
メンテナンス時のCO2排出量
(出典:ディーゼル、 EV、ガソリン 本当にエコなのはどれだ!!! これで決着!!?? より 筆者が編集)
一定の距離を走るとメンテナンスを行うと設定して計算されます。
やはりメンテナンスでも、車両用電池のCO2排出量が目立ちます。
走行中も踏まえたCO2排出量の算定
(出典:マツダ、エンジン車とEVのLCAを厳格に比較 電池データの正確性に課題)
走行距離が 「 111,511 km 〜 160,000 km 」の間は電気自動車のほうが環境に優しいですが、そこから車両用電池の寿命の関係でメンテナンスを行うと、160,000km 以降はガソリン車のほうが環境に優しいという結果になりました。
結果
現時点では、ガソリン車のほうが環境に優しいことがわかります。
原因は、車両用電池、つまり「蓄電池の製造時にCO2を出しすぎている」ということです。
今後の電気自動車の課題としては、蓄電池、つまりリチウムイオン電池の開発によってどれだけ製造時のCO2排出量を減らすかです。
さらに、リチウムイオン電池の寿命を伸ばすことも同様に必要です。
また、この調査は同時にアメリカ、欧州、オーストラリア、中国でも行われていました。
例えば、オーストラリアの2016年の発電された電力のうち85%は火力発電によるものでした。(日本エネ研)
このようにほぼ火力発電で電力を賄っているため、オーストラリアは、電気自動車がガソリン車に勝つことはありませんでした。
電気の発電方法によってもかなり結果が変わってきてしまうのです。
まとめ
現時点では、電気自動車の環境に優しい度合いはかなり限定的です。
ノーベル賞を受賞した、リチウムイオン電池の技術力の向上、リチウムイオン電池による自然エネルギーを利用した再生可能エネルギーの普及が今後不可欠になってきます。そうすれば、費用が格段に落ちさらに普及が進みます。
そのサイクルが一度回りだせば、好循環は止まらずに、再生可能エネルギーが主流になり、街に走る自動車のほとんどが電気自動車という時代が来るのもそう遠い未来じゃないように思えます
リチウムイオン電池も、全固体電池という新しいステージに進んでおり、将来が期待できます。
どうして、リチウムイオン電池が再生可能エネルギーを促進するのか?など、リチウムイオン電池についてはこちらをご覧ください。