2021年にCOP26がイギリスのグラスゴーで開催
COP26は2021年11月にイギリスのグラスゴーで開催されました。参加国は条約締約国である196カ国および欧州連合でした。
この会議では、パリ協定の「1.5℃努力目標」を実現するための努力そのものが気候変動のリスクと影響を大きく削減することを認識しつつ、この努力を世界全体で継続することを再度確認しました。また、この実現のためには今世紀半ばには二酸化炭素の排出を実質ゼロにし、その経過点である2030年には2010年対比で45%削減する必要があることを確認しました。
さらに、この経過点である2030年までの期間を「決定的な10年」と位置付け、行動をより一層加速させる必要があることを認識しました。そして、全ての国に対して「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズダウン(逓減)と非効率な化石燃料補助金のフェーズアウト」をすることを求めました。また、先進国に対しては途上国へ気候変動適応のための資金援助を2025年までに2019年の水準の2倍以上実施することを求めました。
上記以外にもパリ協定に関連したいくつかの項目に関して重要な合意がなされ、それによって実施指針であるルールブックが完成しました。
以下では、パリ協定の関連項目について何が決まったのか、どういった課題があったのか、今後の課題は何が残っているのかをみていこうと思います。
パリ協定関連の各議題で決まったこと
パリ協定の本格的な運用を開始するためには、いくつかの未決定な項目について決める必要がありました。それが、パリ協定6条市場メカニズム、パリ協定13条透明性枠組みとNDC実施の共通時間枠に関する取り決めについてです。(NDCとは、全ての国が提出する温室効果ガスの排出削減目標のことです。)これらは、基本的に脱炭素に向けた取り組みを加速させるための合意です。
また、パリ協定では先進国全体で年間1,000億ドルの途上国向け支援を行うことを合意していましたが、これが実現されていませんでした。そのため、この点に関しても協議が行われました。
パリ協定6条市場メカニズム
この市場メカニズムとは、他国で温室効果ガスの排出削減に貢献した量を自国の排出削減量としてカウントする仕組みのことです。
2015年(COP21)でパリ協定が採択され、3年後の2018年(COP24)でパリ協定6条の実施指針が決定される予定でした。しかし2018年(COP24)と2019年(COP25)で合意に至ることができず、Covid19の影響もありさらに一年遅れ、最終的には想定から3年経過した2021年のCOP26で合意に至りました。
この制度の重要な論点としては、排出量削減の二重計上をどうやって防ぐか、京都議定書でのクレジットをパリ協定へどうやって移管するか、市場メカニズムを利用した適応への資金支援方法をどうするか、がありました。
二重計上とは、先進国が途上国で炭素排出削減プロジェクトを実施したとします。その際に、削減された排出量のクレジットを先進国で削減量として計上し、途上国でも炭素排出量としてプロジェクト実施後の削減された値を使用したとします。この場合、実際にプロジェクトで削減された排出量が先進国と途上国の両方で計上されてしまっていることになります。つまり、世界全体の実際の排出量が算出された値より多くなってしまい、現状を把握することが難しくなってしまいます。
これに対応するために、排出削減プロジェクトの実施国(途上国)の政府が承認したクレジットのみが支援国(先進国)の削減量として利用可能なことが合意されました。この際に途上国の削減分は先進国に移転されるため、途上国の実際の排出量は移転した排出削減量をプラスすることで調整されます。
また、京都議定書でのクレジット(ここで話している排出削減量の取引に似たもの)は2013年以降に登録されたものに限りパリ協定下でも有効となることが確認され、適応資金の支援に関しても実施方法が決定されました。
パリ協定13条透明性枠組み
各国の温室効果ガス排出量及び、NDC(各国の温室効果ガスの排出削減目標)達成に向けた取り組みの報告の形式が異なっていることが課題となっていました。
例えば、NDCの報告に関しては排出量の絶対量を報告している国もあれば、中国のようにGDPあたりのCO2排出量で提示していたり、サウジアラビアのように目標削減量を示している国もあります。
COP26では、これに関して各国共通の比較可能な項目・表形式で報告を行うことが合意されました。またCOP27では、途上国に対する「報告関連のキャパシティビルディングを含めた支援の方法」について引き続き議論されることになっています。
NDC実施の共通時間枠
各国の温室効果ガス排出削減目標であるNDCは5年ごとに国連に提出することになっています。しかし、2031年以降に関しては何年先の目標を提出するかが決まっていませんでした。
COP26の交渉で、2025年に2035年目標を、2030年に2040年の目標を提出することが合意されました。
気候資金
先進国に対して、開発途上国に緩和と適応両方の観点からより強化な支援を行うことが求められました。
背景として、気候変動の影響が深刻化していたことに加えて、コロナウイルス感染症の拡大によって開発途上国で債務が増加していました。また、パリ協定で合意されていた「先進国全体で2020年までに、年間1,000億ドルの途上国向け支援」が実現されていませんでした。
こういった状況に対してCOP26では、先進国全体からの適応支援を2025年までに2019年水準から倍増させること、2025年以降の支援の具体的な数値に関しては2022年から2024年にかけて議論することが合意されました。
参考
- 外務省. 「日本の排出削減目標」. https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000121.html
- 外務省. 「2020年以降の枠組み:パリ協定」. https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000119.html
- IGES. 「研究員が解説―COP26 基礎知識」. https://www.iges.or.jp/jp/projects/cop26-basic-knowledge
- IGES. 「COP25の焦点、市場メカニズム…これまでの議論とその役割」. https://www.iges.or.jp/jp/projects/cop25/takahashi
- 環境省. 「グラスゴー気候合意(環境省暫定訳)」. https://www.env.go.jp/content/000049858.pdf
- 環境省. 「国連気候変動枠組条約第26回締約国会合(COP26)結果概要」. https://www.env.go.jp/content/000049855.pdf
- 環境省. 「気候変動枠組条約第26回締約国会議 (COP26)について」. https://www.env.go.jp/content/000049860.pdf
- 環境省. 「国連気候変動枠組条約第 26 回締約国会合(COP26)結果概要」. https://www.env.go.jp/content/900518177.pdf